豊島 与志雄

「草野心平詩集」解説

草野心平のことを、懇意な人々は心平さんと言う。親愛の気持ちをこめた呼称である。肉付き豊かな大きな顔に、ロイド眼鏡をかけ、口髭をたくわえ、そして蓬髪、とこう書けば、なんだか寄りつきにくい人のようにも見えるけれど、知人を認めるとすぐに、如何にも嬉しげな笑みを浮べ、なつかしげな眼色を漂わすところ、まさに心平さんなのである。その全体の風貌が、物事に拘泥せず、茫洋としている。

だが、その茫洋さのうちにも、おのずからに発露してくる一つの志向がある。道を歩いている時でも、居酒屋で酒杯を手にしている時でも、講演の壇上に立っている時でも、心平さんは、しばしば、いやたいてい、空の一角を凝視するか、地の一隅を睥睨する。そこに、心意の焦点が据えられているのだ。

このことを、単にロマンチックなものだと解してはいけない。内に、或は卑近に、思うことの深ければ深いほど、遠くに夢を追うことになるのだ。言い換えれば、身近かな情感と遙かな夢とが、表裏一体をなす。もとより、それのどちらが表とも裏ともつかない一体だ。そしてどこから突っついても、突っつかれたと感ずる時には、心平さんは徹夜してでも談論風発する。或は詩を作る。

これを、自然と人事と言い換えようか。詩集「大白道」に次のような「序詩」がある。本書(草野心平詩集)に採録しなかったから、少し長いがここに引用しておこう。

青空文庫の作品カード