ロラン ロマン

ジャン・クリストフ

序

ジャン・クリストフの多少激越なる批評的性格は、相次いで各派の読者に、しばしばその気色を寄せしむるの恐れあることと思うから、予はその物語の新たなる局面に入るに当たって、予が諸友およびジャン・クリストフの諸友に願うが、吾人の批判を決定的のものとみなさないでいただきたい。吾人の思想のおのおのは、吾人の生涯の一瞬間にすぎない。もし生きるということが、おのれの誤謬を正し、おのれの偏見を征服し、おのれの思想と心とを日々に拡大する、というためでないならば、それは吾人になんの役にたとう? 待たれよ! たとい吾人に謬見あろうとも、しばらく許されよ。吾人はみずから謬見あるべきを知っている。そしておのれの誤謬を認むる時には、諸君よりもさらに苛酷にそれをとがむるであろう。日々に吾人は、多少なりとさらに真理に近づかんと努めている。吾人が終末に達する時、諸君は吾人の努力の価値を判断せらるるであろう。古き諺の言うとおり、「死は一生を讃め、夕は一日を讃む。」

一九〇六年十一月ロマン・ローラン[#改丁]

一 流沙

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