ユゴー ヴィクトル
レ・ミゼラブル
第一編 市街戦
一 サン・タントアーヌとタンプルとの両防寨
社会の病根を観察する者がまずあげ得る最も顕著な二つの防寨は、本書の事件と同時代のものではない。その二つの防寨は、異なった二つの局面においていずれも恐るべき情況を象徴するものであって、有史以来の最も大なる市街戦たる一八四八年六月の宿命的な反乱のおり、地上に現われ出たのである。
時として、主義に反し、自由と平等と友愛とに反し、一般投票に反し、万人が万人を統べる政府に反してまでも、その苦悩と落胆と欠乏と激昂と困窮と毒気と無知と暗黒との底から、絶望せる偉人ともいうべき賤民は抗議を持ち出すことがあり、下層民は民衆に戦いをいどむことがある。