豊島 与志雄

化生のもの

小泉美枝子は、容姿うるわしく、挙措しとやかで、そして才気もあり、多くの人から好感を持たれた。海軍大佐だった良人を戦争で失い、其後、再婚の話も幾つかあったが、それには耳をかさず、未亡人生活を立て通していた。書生が一人、奥働きの女中が一人、下働きの女中が一人、それだけの家庭で、なお遠縁に当る中学生を一人預っている。近所の評判もよかった。

ところが、近頃、知人たちの間に、ひそひそと交わされる噂が拡まっていった。美枝子に愛人があるらしいというのである。

「まあ、あのひとに。」

「そうなんですよ。」

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