豊島 与志雄
霊感
第一話
都内某寺の、墓地の一隅に、ちと風変りな碑があります。火山岩の石塊を積みあげて、高い塚を築き、その頂に、平たい石碑を立てたものです。碑面に、身禄山とありますが、その昔、身禄という行者があって、深山に籠り、禅の悟道に参入して生を終えた、その人のために建てた碑です。大正十二年再建とありますが、大正十二年といえば関東大地震の年で、恐らく、土台の石畳の一部が壊れるか、碑が傾くかして、それを修理したのでしょう。全体の構築はたいへん古く、碑の背後には、樫の古木が茂っています。
この身禄山を、附近の人々は、ミロクサンと呼んでいます。文字面の音をそのまま取って、身禄さまではなく、身禄さんと、親しい気持ちをこめたものです。そして朝な夕な、誰がするともなく、白紙に塩や白米を盛ったのが、身禄さんの前に供えられています。
この身禄さんを、三年ほど前までは、ほとんど誰も顧みる者がありませんでした。塚全体が荒れはて、茅草や灌木が生え、といっても火山岩を畳みあげたものですから、気味わるい茂みを作るほどではなく、あたりの立木の蔭にひっそりとして、つまり、人目につかない状態のまま、うち捨ててあったのです。