黒島 伝治
砂糖泥棒
与助の妻は産褥についていた。子供は六ツになる女を頭に二人あった。今度で三人目である。彼はある日砂糖倉に這入って帆前垂にザラメをすくいこんでいた、ところがそこを主人が見つけた。
主人は、醤油醸造場の門を入って来たところだった。砂糖倉は門を入ってすぐ右側にあった。頑丈な格子戸がそこについていた。主人は細かくて、やかましかった。醤油袋一枚、縄切れ五六尺でさえ、労働者が塵の中へ掃き込んだり、焼いたりしていると叱りつけた。そういう性質からして、工場へ一歩足を踏みこむと、棒切れ一ツにでも眼を見はっていた。細かく眼が働く特別な才能でも持っているらしい。
彼は与助には気づかぬ振りをして、すぐ屋敷へ帰って、杜氏(職工長の如き役目の者)を呼んだ。
杜氏は、恭々しく頭を下げて、伏目勝ちに主人の話をきいた。