豊島 与志雄
立札
揚子江の岸の、或る港町に、張という旧家がありました。この旧家に、朱文という男が仕えていました。
伝えるところに依りますと、或る年の初夏の頃、この張家の屋敷の一隅にある大きな楠をじっと眺めて、半日も佇んでいる、背の高い男がありました。それを、張家の主人の一滄が見咎めて、何をしているのかと尋ねました。
「楠を見ているのです。」と背の高い男は答えました。
「それは分っているが、なぜそんなに見ているのか。」
豊島 与志雄
揚子江の岸の、或る港町に、張という旧家がありました。この旧家に、朱文という男が仕えていました。
伝えるところに依りますと、或る年の初夏の頃、この張家の屋敷の一隅にある大きな楠をじっと眺めて、半日も佇んでいる、背の高い男がありました。それを、張家の主人の一滄が見咎めて、何をしているのかと尋ねました。
「楠を見ているのです。」と背の高い男は答えました。
「それは分っているが、なぜそんなに見ているのか。」