豊島 与志雄
変る
壁と天井が白く塗ってあるので、狭い屋内は妙に明るく見えるが、数個の電灯の燭光はさほど強くない。柱の籠に投げ入れてある桃の蕾と菜の花の色も、季節に早いせいばかりでなく、へんに淡い。だが、木下大五郎の存在は目立った。帽子と外套の襟及び袖の折返しに、薄茶色の絨毛がもりあがっている。その色ではなく、そうした服装が、季節後れというよりも、なんだか場違いなのだ。ひいては、彼の存在そのものまでが場違いなのである。
その場違いなものを、大五郎はかすかに感じながら、また誇りともしていた。眼には穏かな光があった。残り少ない銚子の酒を、小さな盃で一杯ぐっと飲んで、隣席の男の横顔をじっと眺めた。
長髪に眼鏡、可なりいたんだ背広と外套の痩せた中年の男だった。新聞か雑誌に関係の者らしい。
「君の顔は立派ですな。中高で、何より、鼻が高く、ギリシャ型というんですか……。そこにいくと、僕の顔なんか、どうも……。」