豊島 与志雄
未亡人
守山未亡人千賀子さん
私が顔を出すと、あなたはいつも擽ったいような表情をしますね。この擽ったいというやつは、なかなか複雑微妙な感情でして、私はいったいあなたから嫌われてるのか好かれてるのか、戸惑いさせられますよ。もっとも、私としては、あなたから好かれようと嫌われようと、そんなことはどうでも宜しいのですが、あなたの方では、それをはっきりさせとく必要がありますよ。さもないと、私はあなたを擽り擽り、息の根をとめるようなことになるかも知れませんからね。
あなたは猫を擽ってみたことがありますね。ところが、猫は全く平気だったでしょう。擽られる場所が異るにつれて、或は喉を鳴らしたり、或は耳を垂れたり、或は手足を伸ばしたり、それだけで、少しも擽ったがる様子は見えなかったでしょう。それを不思議がって、更に猫をあちこち擽ってみてるあなたの方は、なにか猥らがましくそして滑稽でしたよ。つまり、あなたの方が猫より下劣でした。
猫と同じように、あなたが、硝子戸の中で日向ぼっこをしたり、電気炬燵でうつらうつらしたり、やたらに欠伸をしたりするのを、私はとやかく言うのではありません。