森田 草平

四十八人目

一

毛利小平太は小商人に身を扮して、本所二つ目は相生町三丁目、ちょうど吉良左兵衛邸の辻版小屋筋違い前にあたる米屋五兵衛こと、じつは同志の一人前原伊助の店のために、今日しも砂村方面へ卵の買い出しに出かけたが、その帰途に、亀井戸天神の境内にある掛茶屋に立ち寄って、ちょっと足を休めた。葭簀の蔭からぼんやり早稲の穂の垂れた田圃づらを眺めていると、二十ばかりの女中がそばへやってきて、

「お茶召しあがりませ」と言いながら、名物葛餅の皿と茶盆とを縁台の端に置いて行った。

小平太は片手に湯呑を取り上げたまま、どこやらその女の顔に見覚えがあるような気がして、後を見送った。女の方でもそんな気がするかして、二人の子供を連れた先客の用を聞きながらも、時々こちらを偸み見るようにした。小平太は「はてな?」と小首を傾げた。が、どうしても想いだせぬので、二度目にその女が急須を持ってそばへ来た時、

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