坂口 安吾

反スタイルの記

(上)

私がヒロポンという薬の名をきいたのは六七年前で、東京新聞のY君がきかせてくれたのである。そのときは二日酔いの薬というY君式の伝授で、社の猛者連中が宿酔に用いて霊顕あらたか、という効能がついていた。けれども、当時はそろ/\酒も姿をひそめて、めったに宿酔もできない世の中になりかけていたから、ヒロポンのお世話になる必要もなかった。

それから一二年して、仕事にヒロポンを用いているという二人の男にぶつかった。南川潤と荒正人だ。南川がヒロポンというのは話が分るが、荒正人とヒロポンは取り合せが変だ。ヒロポンが顔負けしそうだけれども、彼は女房、女中に至るまでヒロポンをのませて家庭の能率をあげるという奇妙な文化生活をたのしんでいるのだそうである。

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