坂口 安吾
梟雄
京の西の岡というところに、松波基宗という北面の武士が住んでいた。乱世のことであるから官給は至って不充分で、泥棒でもしなければ生活が立たないように貧乏である。
子供も何人かあるうちで、十一になる峯丸というのが絵の中からぬけでたように美しいばかりでなく、生れつきの発明、非凡の才智を備えていた。
才あって門地のない者が、その才にしたがい確実に立身する道は仏門に入ることである。そこで松波は妙覚寺の白善上人にたのんで、峯丸を弟子にしてもらった。
峯丸の法蓮房は持前の才智の上によく勉強して、たちまち頭角をあらわし、顕密の奥旨をきわめたが、その弁舌の巧者なことに至っては対する者がただ舌をまいて引き退るばかりで凡人の近づきがたい魔風があった。鋭すぎたのである。