坂口 安吾

「花」の確立

文学も勿論さうだが、生活も、元来が平時のものである。戦争は特殊な過渡期で、いはゆる非常時だから、戦場に文学はないし、また生活もないと思ふ。

戦勝後の国力の増大、また個人生活の増大、文化も文学も、本来そこに結びついてゐるものだ。

戦前の日本は、なんといつても生活程度が低かつた。日本人は最も素質ある国民で、観念生活は豊富であるにも拘らず、生活程度がそれにともなはないために、生活感情が混乱せざるを得なかつた。生活に浪曼的情熱の正当な温床がなかつたから、従而、感情のともなはぬ知性も発育するに由なく、徒らに混乱して、芸術の姿を失ふばかりであつた。

元来、苦力に芸術はない。苦力には苦力の芸術がなければならぬといふことは、嘘である。芸術はそのあるべき場所にしか有り得ない。

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