菊池 寛
アラビヤンナイト
バクダッドの町に、ヒンドバッドという、貧乏な荷かつぎがいました。荷かつぎというのは、鉄道の赤帽のように、お金をもらって人の荷物を運ぶ人です。
ある暑い日のお昼から、ずいぶん重い荷物をかついで歩いていましたが、しずかな通りへさしかかった時、大そうりっぱな家が立っているのが、目に入りました。ヒンドバッドは、その門のそばで、少し休むことにしました。
その家は、とてもりっぱでした。ヒンドバッドは、まだこんなにりっぱな家を見たことがありませんでした。家のまわりの敷石の上には、香水がまいてありました。
ヒンドバッドの足は、つかれて、熱くなっていたものですから、その敷石は大へん気持がようございました。