倉田 百三
学生と読書
一 書とは何か
書物は他人の労作であり、贈り物である。他人の精神生活の、あるいは物的の研究の報告である。高くは聖書のように、自分の体験した人間のたましいの深部をあまねく人類に宣伝的に感染させようとしたものから、哲学的の思索、科学的の研究、芸文的の制作、厚生実地上の試験から、近くは旅行記や、現地報告の類にいたるまで、ことごとく他人の心身の労作にならぬものはない。そしてそのような他人の労作の背後には人間共存の意識が横たわっているのであり、著者たちはその共生の意識から書を共存者へと贈ったものである。
したがって、書を読むとはかような共存感からの他人の贈る物を受けることを意味する。
人間共存のシンパシィと、先人の遺産ならびに同時代者の寄与とに対する敬意と感謝の心とをもって書物は読まるべきである。たとい孤独や、呪詛や、非難的の文字の書に対するときにも、これらの著者がこれを公にした以上は、共存者への「訴えの心」が潜在していることを洞察して、ゼネラスな態度で、その意をくみとろうと努むべきである。