坂口 安吾
私の碁
塩入三段と岩谷社長とフラリときて挑戦するのを迎えうって、僕が塩入三段に勝った。これを雑誌にのせるという、まことに醜態で、恥を天下にさらす、あさましい話である。
私があんまり布石にヘタクソで、二十目ちかいダンゴ石が出来上った始末だから、塩入三段も驚いた様子で、あんまり勝っちゃ気の毒だと気を許したところをツケこんで向う脛を払ったような碁だから、私はもとより勝った気はしていないのである。
今度やっては、もはや五目じゃ、とても勝てないだろう。私は専門棋士とやると、たいがい第一局は勝つことになっている。
つまり私の布石がデタラメで、序盤にトンマな石ばかり打つから、みんな気の毒がって気をゆるめる。すると唐突に向う脛を蹴とばす。いつも、たいがいそのデンで、第一局をモノにする。第二局から碁の性格を見破られるから、気の毒がったり気をゆるめてくれなくなり、私は結局、もう一目、よけい置かないと勝負にならない結末となる習いなのである。