坂口 安吾
釣り師の心境
私は妙に魚釣りに縁のあるあたりに住んできたが、小田原で三日間ぐらい鮎釣りをした以外は魚を釣ったことがない。先日もお医者さんから、早朝の魚釣りなどは健康によろしいから、とすゝめられたが、なるほど今住むところも、わざ/\東京から釣りにくる人があって、それを目当てのボート屋などもある土地だが、釣りをする気持にはなれないのである。
駅前のカストリ屋のオヤジは投網をもっていて、これも私を頻りに誘う。私がキャッチボールをしていると、野球はカラダに毒ですよ、投網は健康ですぜ、と言う。
「投網だって、投げるんじゃないか」
「ヘッヘッヘ。理窟はいけません。未明という時間に関係のある微妙な問題です」