リルケ ライネル・マリア

駆落

寺院は全く空虚である。

贄卓の上の色硝子の窓から差し入る夕日が、昔の画家が童貞女の御告の画にかくやうに、幅広く素直に中堂に落ちて、階段に敷いてある、色の褪めた絨緞を彩つてゐる。それからバロツク式の木の柱の立つてゐる、レクトリウムを通つて、その奥の方に行くと、段々暗くなつて、そこには煤けた聖者の像の前に点してある、小さい常燈明が、さも意味ありげに瞬をしてゐる。それから一番奥の粗末な石の柱の向うは真の闇になつてゐる。

そこに二人は坐つてゐる。その頭の上には古い受難図が掛けてある。色の青い娘は、着てゐる薄い茶色のジヤケツを、分厚に出来た、黒い※(「木+解」、第3水準1-86-22)の木のベンチの、一番暗い隅に押し付けるやうにして坐つてゐる。娘の被つてゐる帽子の薔薇の花が、腰を掛けてゐるベンチの背中の木彫の天使の腮をくすぐると見えて、天使は微笑んでゐる。

フリツツといふ高等学校生徒は、地の悪くなつた手袋に嵌め込んである、ひどく小さい、娘の両手を、丁度小鳥をでも握つてゐるやうに、柔かに、しかもしつかり握つてゐる。

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