坂口 安吾
我が人生観
谷川岳で、又、人が死んだ。いろいろ人の死のニュースの中では、一抹清涼で、平和な生活を感じさせてくれる。
人間同士でひきおこす出来事は、祝儀不祝儀に拘らず、どことなく陰鬱なものである。人間臭というものは、何につけても身につまされるところがあって、暗い陰をまぬかれることができないものだ。しかし、相手が自然となると、人間も神様みたいなものである。
私は登山らしい登山は殆どやっていないが、一度、山で死に損ったことがあった。しかし、話にならないのである。山というような山じゃない。里の人も名のつけようがないような、どこにでもゴロ/\している山で、おまけに、その麓、入口のようなところで死に損ったのである。
同郷の先輩で、伴という弁護士をしている人が、若いころ、夢のような生活にあこがれていたらしい。青梅の奥の日陰和田というところから、山へはいって谷川を渉って登った中腹の広場、ちょッと一町歩ぐらいの広さがあったかな。あるいは、一町歩以上あったかも知れない。小さな山々にかこまれた中腹であるが、大そう日当りのよい草地であった。そこには喬木も灌木もなく、雑草だけが繁っていた。あるいは伴氏が、立樹を全部切ったのかも知れない。