海野 十三
新学期行進曲
第一景 勉強組合
△騒然たる中学校の教室の音響――「やい亀井」「なんだ松岡」「随分黒いぞ」「黒くておかしいかい。やい白ん坊」「なんだ黒ん坊」などの早い会話のやりとりを遠く聞かせる。それに交って、床をドタ靴でふみならしながら、愛国行進曲を口笛で吹いているのが聞える。△始業のサイレンの音――更に遠くに聞える。△扉をドーンとついて、また新たに教室へとびこんで来る生徒の靴音、鞄を投げつける音、それに交って「あれ、おれの席はどこだ」「おい吉田吉田こっちだこっちだ」「やあ変だなあ、こんなところに僕の机が……」などと急口調の話声。生徒蝦原 あっ先生だ……。△扉がガチャリとしまる音先生 えっへん一同、たちまちしーんと静粛になる(間)先生 (出席簿をバタバタ開けたりしめたりしながら)ああア皆さん。このクラスは相変らず元気者ぞろいじゃのう。夏休み中は、さぞやさぞ楽しいことであったろう。先生などは夏休み中、すこし気にかかることがあって(といってはっと気がつき)ああむにゃむにゃ、えっへん。――ああア、そこで新学期の始めに一つ、クラス全体に苦言を呈しておく。△生徒大勢がガヤガヤと不安の気配先生 ああア、どうじゃ、このクラスはなかなか元気者揃いであり、また中々無邪気者揃いであって、先生はよいクラスじゃと思っとるが、ああア、一つ感心せんことがある。それは――それはじゃ、近来宿題をやらせても大分出来が悪いし、試験をやっても、これまた答案の出来が悪い。どうもこれは困った傾向じゃ。生徒一同。しーんとしている(間)先生 (励声一番)これ思うに、このクラスの皆が戦争ごっこに夢中になっていて、勉強の方をとんと怠っている