国木田 独歩
節操
『房、奥様の出る時何とか言つたかい。』と佐山銀之助は茶の間に入ると直ぐ訊た。
『今日は講習会から後藤様へ一寸廻るから少し遅くなると被仰いました。』
『飯を食せろ!』と銀之助は忌々しさうに言つて、白布の覆けてある長方形の食卓の前にドツカと坐はつた。
女中の房は手早く燗瓶を銅壺に入れ、食卓の布を除つた。そして更に卓上の食品を彼所此処と置き直して心配さうに主人の様子をうかがつた。
国木田 独歩
『房、奥様の出る時何とか言つたかい。』と佐山銀之助は茶の間に入ると直ぐ訊た。
『今日は講習会から後藤様へ一寸廻るから少し遅くなると被仰いました。』
『飯を食せろ!』と銀之助は忌々しさうに言つて、白布の覆けてある長方形の食卓の前にドツカと坐はつた。
女中の房は手早く燗瓶を銅壺に入れ、食卓の布を除つた。そして更に卓上の食品を彼所此処と置き直して心配さうに主人の様子をうかがつた。