中里 介山
大菩薩峠
一
宇治山田の米友は、碓氷峠の頂、熊野権現の御前の風車に凭れて、遥かに東国の方を眺めている。
今、米友が凭れている風車、それを米友は風車とは気がつかないで、単に凭れ頃な石塔のたぐいだと心得ている。米友でなくても、誰もこの平たい石の塔に似たものが、風車だと気のつくものはあるまい。子供たちは、紙と豆とでこしらえた風車を喜ぶ。ネザランドの農家ではウィンドミルを実用に供し、同時にその国の風景に情趣を添えている。が、世界のどこへ行っても、石の風車というのは、人間の常識に反いているはずだ。しかし、碓氷峠にはそれがある。
碓氷峠のあの風車