酒井 嘉七

両面競牡丹

奈良坂やさゆり姫百合にりん咲き

           ――常磐津『両面月姿絵』

一

港の街とは申しますものの、あの辺りは、昔から代々うち続いた旧家が軒をならべた、静かな一角でございまして、ご商売屋さんと申しますれば、三河屋さんとか、駒屋さん、さては、井筒屋さんというような、表看板はごく、ひっそりと、格子戸の奥で商売をされている様なお宅ばかり――それも、ご商売と申すのは、看板だけ、多くは、家代々からうけついだ、財産や家宅をもって、のんびりと気楽にお暮しになっている方々が住んでいられる一角でございました。私の家は、そうした町のかたすみにございまして、別に、これと申すほどの資産もございませんでしたが、それにしても、住んでいる家だけは自分のもの――と、こういった気持ちが、いくらか、私たち母娘の生活を気安くさせていたのでございましょう。

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