蘭 郁二郎
足の裏
一
さて、私がいまお話ししようというお話の主人公は、景岡秀三郎――という景岡浴場の主人なのですが、その人の色々変ったお話と、それに関連して探偵小説的な一つのトリックといったようなものを御紹介しようと思うのです。
浴場の主人――などというと如何にも年輩の、シッカリした男を連想しますけど、景岡は私立大学を出たばかりの、まだ三十には二三年間のある青年でした。大学を出たばかりの青年がお湯屋の主人なんて――、誠に不釣合な話です。だが彼の奇癖が、こんな商売をやらせたのです。
一体、景岡秀三郎という青年は……チョット傍道になりますけれど……少年の時から、極く内気な性質でした。そうした少年にありがちな傾向として、彼も矢張り、小学校という社会に投込まれた時に、どんなに驚ろいた事でしょう。元気よく馳け廻る大勢の友人を、寧ろ、驚異の眼で見とれ乍ら、校舎の蔭にポツンと独り、影法師のような秀三郎でした。――そのくせ、夢みるような瞳は、飽くなき巨大な幻想を疑視めていたのです。