蘭 郁二郎

腐った蜉蝣

一

黄昏――その、ほのぼのとした夕靄が、地肌からわき騰って来る時間になると、私は何かしら凝乎としてはいられなくなるのであった。

殊にその日が、カラリと晴れた明るい日であったならば猶更のこと、恋猫のように気がせかせかとして、とても家の中に籠ってなぞいることは出来なかった。さも、そのあたりに昼の名残が落ちているような、そして、それを捜しまわるように、ただ訳もなく家を出、あてどない道を歩いて行くのだ。

――その当時、私は太平洋の海岸線に沿った、小さな町にいた。自分から、あの華やかな「東京」を見棄てこんなネオンライト一つない町に、進んで来たわけではなかったが、医者に相当ひどい神経衰弱だ、といわれたのを機会に、失恋の東京から、暫く遠ざかるのもよかろうと、小別荘を借りて移って来たのだ。

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