蘭 郁二郎
孤独
洋次郎は、銀座の裏通りにある“ツリカゴ”という、小さい喫茶店が気に入って、何時からとはなく、そこの常連みたいになっていた。と、いってもわざわざ行く程でもないが出歩くのが好きな洋次郎は、ツイ便利な銀座へ毎日のように行き、行けば必ず“ツリカゴ”に寄るといった風であった。
“ツリカゴ”は小さい家だったけれど、中は皆ボックスばかりで、どのテーブルも真黒などっしりしたものであり、又客の尠い為でもあろうか、幾ら長く居ても、少しも厭な顔を見ないで済むのが、殊更に、気に入ってしまったのだ。
何故ならば洋次郎は、その片隅のボックスでコーヒーを啜りながら、色々と他愛もない幻想に耽けることが、その気分が、たまらなく好ましかったからであった。
そうして何時か黄昏の迫った遽しい街に出ると、周囲のでかでかしいネオンサインの中に“ツリカゴ”と淡く浮くちっぽけなネオンを、いじらしくさえ思うのであった。