中里 介山

大菩薩峠

一

同じその宵のこと、大津の浜から八十石の丸船をよそおいして、こっそりと湖中へ向って船出をした甲板の上に、毛氈を敷いて酒肴を置き、上座に構えているその人は、有野村の藤原の伊太夫で、その傍に寄り添うようにして、

「御前様、光悦屋敷とやらのことは、もう一ぺんよくお考えあそばしませ、大谷風呂の方は、どちらへ転びましても結構でございますがねえ」

それは女軽業の親方のお角でした。

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