相馬 愛蔵
私の小売商道
序
私は商業に何の経験もなくて一商店主となったものであります。従って既往幾百年の間に、商人がその経験から受け継いで来た商売の掛引その他については、何の知識をも持っていないのであります。さらに在来の商人が伝来の風習によってかえって商人道の真髄に遠ざかる憾みあることを感じ、むしろ素人を以て誇りとするものであります。
また欧米諸国の商売振りについても、これを会得する機会を持ちませんでした。
されば私のやり方は外国の模倣でないことはもちろん、全くの自己流でまた純然たる日本風を以て任ずるものであります。そういう意味で本書を公にすることも、商売の道を辿るものにとって、多少の参考になろうかと思うのでありますが、何分毎日の仕事に追われがちで、一貫した系統を立てる余裕がありません。折に触れ事に臨んで断片的に記述したものを集めて、一冊にまとめ上げたのでありますから、前後の順序等もととのっておらず、また時には重複したところもあり、甚だ不完全なものでありますけれど、その意を諒として愛読をたまわりますれば著者の本懐であります。