国枝 史郎

猿ヶ京片耳伝説

痛む耳

「耳が痛んでなりませぬ」

と女は云って、掌で左の耳を抑えた。

年増ではあるが美しいその武士の妻女は、地に据えられた駕籠の、たれのかかげられた隙から顔を覗かせて、そう云ったのであった。

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