国枝 史郎
生死卍巴
占われたる運命は?
「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」
こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに立っている旗本屋敷の、家根の甍が光って見えた。土塀を食み出して夕顔の花が、それこそ女の顔のように、白くぽっかりと浮いて見えるのが、凄艶の趣きを充分に添えた。
その夕顔の花の下に立って、そう美女が侍を呼びかけたのであった。
国枝 史郎
占われたる運命は?
「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」
こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに立っている旗本屋敷の、家根の甍が光って見えた。土塀を食み出して夕顔の花が、それこそ女の顔のように、白くぽっかりと浮いて見えるのが、凄艶の趣きを充分に添えた。
その夕顔の花の下に立って、そう美女が侍を呼びかけたのであった。