岸田 国士
物言う術
「物言ふ術」とは、仏蘭西語の ART DE DIRE を訳したつもりである。
ART DE DIRE は、謂ふところの「話術」又は「雄弁術」ではない。既に「言はるべき言葉」が例へば文字として表示されてゐる、それを如何に「肉声化」するかといふことの工夫である。かういふとおかしくなるが、俳優の「白」に外ならない。
日本劇の伝統で「せりふまはし」とか、或は、「口跡」とかいふ言葉は、この「物言ふ術」の一部と見るべきであらう。
そこで問題は、わが国の演劇が「物言ふ術」を今日まで如何に取扱つてゐるかである。殊に今日、新劇の演出者が、どの程度まで、この点に注意を払つてゐるかである。