魯迅

幸福な家庭

「……するもしないも全く自分の勝手だが、作品というからには、鉄と石とカチ合って出来た火花のようなものでは駄目だ。あの太陽の光のように無限の光源の中から湧き出して来たようなものが、これこそ真の芸術だ。その作者こそ初めて真の芸術家だ。そうして乃公は……それしきのことが何だ……」

彼はそこまで考えると、いきなりベッドから跳起きた。彼はずっと前から、原稿料で生活をして行きたいと考えていたが、投稿するなら、まず幸福日報社が好かろうと規めていた。そこは比較的に稿料を余計に呉れるからだ。しかし、作品には一定の範囲があるから、その範囲を越えれば没書になる恐れがある。範囲も範囲だが……現代の青年の脳裏にある大問題は? なかなか少くなさそうだ。いやどっさりあるかもしれない。恋愛、結婚、家庭などと来ては。……そうだ、この点についてはたしかに多くの人が悩んでいて、ちょうど今いろいろ討論中である。では家庭を書いてみよう。それはそうとどんな風に書こうかな……そうしなければ没書になる恐れがあるし、わざわざ時勢に背く必要もない。それはそうと……彼はベッドから跳上ると、五六歩進んでテーブルの前に行き、緑罫の原稿用紙を一枚取ると、ぶっつけに、やや自棄気味にもなって、次のような題を書いた。

「幸福な家庭」

だが、彼の筆はたちどころに渋った。彼は仰向になって両眼を屋根裏に※(「目+爭」、第3水準1-88-85)りながら、「幸福の家庭」の置場を考えてみた。「北京は? 駄目だ。全く沈み切ってしまって空気までも死んでいる。よしんば家庭のまわりを高塀が、ぐるりと囲んでいるにもせよ、まさか空気を遮断することは出来まい。つまり駄

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