モーパッサン ギ・ド

狂女

実はねえ、とマテュー・ダントラン君が云った。――僕はその山※[#「鷸」のへんとつくりが逆、86-1]のはなしで、普仏戦争当時の挿話をひとつ思い出すんだよ。ちと陰惨なはなしなんだがね。

君は、コルメイユの町はずれに僕がもっていた地所を知っているだろう。普魯西の兵隊が押寄せて来た頃は、僕はあそこに住んでいたのだ。

その頃、僕のうちの隣りに、まあ狂女と云うのだろう、妙な女がひとり住んでいた。たび重なる不幸で頭が変になってしまったんだね。話はすこし昔にかえるが、この女は二十五の年紀に、たった一月のうちに、その父親と夫と、生れたばかりの赤ン坊を亡くしてしまったのだった。

死と云うやつは、一たびどこかの家へ這入ると、それから後は、もうその家の入口をすっかり心得てでもいるように、すぐまたその家を襲いたがるものらしい。

青空文庫の作品カード