谷 譲次
踊る地平線
アイチミュラ・羽左衛門
『ミスタ・ウザエモン・イチムラ――有名な日本の俳優がここに泊っているはずですが、いまいらっしゃいましょうか?』
あちこち動きまわっている番頭たちのなかから、やっとのことでひとりの注意を捉え得た私は、せいの高い帳場の台ごしに上半身を乗り出して、「有名な」に力を入れてどなるようにこう訊いた。
相手の番頭というのは、縞ずぼんに黒の背広を着た、いかにも英吉利のホテルのクラアクらしい五十がらみの赤毛の男である。場処は倫敦ピカデリイのパアク・レイン・ホテル――午前十時。