小栗 虫太郎

人魚謎お岩殺し

序 消え失せた人魚

今こそ、二三流の劇場を歩いているとはいえ、その昔、浅尾里虹の一座には、やはり小屋掛けの野天芝居時代があった。

それでこそ、その名は私たちの耳に、なかなか親しみ深くでもあり、よしんばあの惨劇が起らなかったにしろ、どうしてどうして忘れ去れるものではなかった。

と云うのは、その一座には、日本で一ヶ所と云ってもよい特殊な上演種目があった。それがほかならぬ、流血演劇だったのである。

青空文庫の作品カード