谷 譲次
踊る地平線
とりっぷ・あ・ら・もうど
BUMP!
ロンドン巴里間航空旅行。
一九二八年――A・D――七月はじめ、それこそどしんと押し寄せてきた暑さの波に揉まれて、山高帽と皮手袋と円踵の女靴と、石炭とキドニイ・パイと――つまり老ろんどんそれじしんが、影のない樹立ちも、ほこりの白い街路も、商店の軒覆の下をつたわっていく大男の巡査も、みんな一ようにまっくろなはんけちで真黒な汗をふきながら―― now, つまり、珍しくあつい以外には、まず、しごく平和な夏の英都の或る日の正午ちかく、詳しく言えば午前十時四十五分だった。いまや自動車の急流ひきも切らないウェストミンスタア橋の方角からあれよという間に一台駈けぬけてきたTAXIが、リジェント街とチャアルス街の角にぴたりと静止すると、そこの石造建築物のまえに手荷物とともにひらりと地に下り立った男女の東洋人があった。