中井 正一

地方文化運動報告

終戦の混乱から広島県の東部地方がその身辺を整理しはじめたのは昨年の九月中旬頃からであった。図書館もその本を疎開先より帰し、館の汚れた窓ガラスを拭き終えたのは九月の末頃であった。これから疲れはてた青年達をして、この昏冥の意識の中から、立上らしめるきっかけを与えるには何うしたらよいであろうか。次から次に、マックアーサー司令部から与えられつつある自由を、真実の姿をもって、青年の魂の中に浸み込ませるには何うしたらいいんだろう。

暗澹たる想い、というのはその時の私のいつわらざる心持であった。どこから、この尾道の一角に手をかけて行くべきであろうか。私のこころは暗かった。

或る日、書庫の整理に書塵に白くなっていた時、一人の青年が黙々と長身を利して、高い書架の本を降ろしているのを発見した。

「君は誰だ」「広島高等学校のものです。本がすきだから手伝っているんです」と言った。私は彼をして働くままにまかせていた。幾日かの中に、彼が絵を描くことも判って来た。

青空文庫の作品カード