芥川 竜之介

侏儒の言葉

星

太陽の下に新しきことなしとは古人の道破した言葉である。しかし新しいことのないのは独り太陽の下ばかりではない。

天文学者の説によれば、ヘラクレス星群を発した光は我我の地球へ達するのに三万六千年を要するさうである。が、ヘラクレス星群と雖も、永久に輝いてゐることは出来ない。何時か一度は冷灰のやうに、美しい光を失つてしまふ。のみならず死は何処へ行つても常に生を孕んでゐる。光を失つたヘラクレス星群も無辺の天をさまよふ内に、都合の好い機会を得さへすれば、一団の星雲と変化するであらう。さうすれば又新しい星は続々と其処に生まれるのである。

宇宙の大に比べれば、太陽も一点の燐火に過ぎない。況や我我の地球をやである。しかし遠い宇宙の極、銀河のほとりに起つてゐることも、実はこの泥団の上に起つてゐることと変りはない。生死は運動の方則のもとに、絶えず循環してゐるのである。

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