下村 湖人
次郎物語
一 血書
「次郎さん、いらっしゃる?」
階段のすぐ下から、道江の声がした。
次郎はちょっとその方をふりむいたが、すぐまた机に頬杖をついて、じっと何か考えこんでいる。いつもなら学校からかえるとすぐ、鶏舎か畑に出て、夕飯時まではせっせと手伝いをする習慣であり、それがまた彼のこのごろの一つの楽しみにもなっているのであるが、今日はどうしたわけか、誰にも帰ったというあいさつもしないで、二階にあがったきり、机によりかかっているのである。
下村 湖人
一 血書
「次郎さん、いらっしゃる?」
階段のすぐ下から、道江の声がした。
次郎はちょっとその方をふりむいたが、すぐまた机に頬杖をついて、じっと何か考えこんでいる。いつもなら学校からかえるとすぐ、鶏舎か畑に出て、夕飯時まではせっせと手伝いをする習慣であり、それがまた彼のこのごろの一つの楽しみにもなっているのであるが、今日はどうしたわけか、誰にも帰ったというあいさつもしないで、二階にあがったきり、机によりかかっているのである。