中井 正一

過剰の意識

何年前であったか、親不知子不知のトンネルをでたころであった。前に座っていた胸を病んでいると思える青年が、突然

「ああ海はいい、海はいいなあ……」

といって、一直線にのびている黒い日本海の水平を、むさぼるように凝視しつついうのであった。そして前に座っている私をつかまえて、多くのことをいったが、

「単純な、静かな、この一直線はどうです好いですなあ。私は東京から体を悪くして故郷の山奥の温泉にいくんですが、東京にはこの単純な美しさがありません。男の子と女の子が、山の奥でただ愛しあうというような単純な美しさがありません。……」というような意味のことを口ばやにいった。そして、海を見ながら

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