宮沢 賢治

化物丁場

五六日続いた雨の、やっとあがった朝でした。黄金の日光が、青い木や稲を、照してはゐましたが、空には、方角の決まらない雲がふらふら飛び、山脈も非常に近く見えて、なんだかまだほんたうに霽れたといふやうな気がしませんでした。

私は、西の仙人鉱山に、小さな用事がありましたので、黒沢尻で、軽便鉄道に乗りかへました。

車室の中は、割合空いて居りました。それでもやっぱり二十人ぐらゐはあったでせう。がやがや話して居りました。私のあとから入って来た人もありました。

話はここでも、本線の方と同じやうに、昨日までの雨と洪水の噂でした。大抵南の方のことでした。狐禅寺では、北上川が一丈六尺増したと誰かが云ひました。宮城の品井沼の岸では、稲がもう四日も泥水を被ってゐる、どうしても今年はあの辺は半作だらうと又誰か言ってゐました。

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