宮沢 賢治

毒蛾

私は今日のひるすぎ、イーハトブ地方への出張から帰ったばかりです。私は文部局の巡回視学官ですから、どうしても始終出張ばかりしてゐます。私が行くと、どこの学校でも、先生も生徒も、大へん緊張します。

さて、今度のイーハトブの旅行中で、私は大へんめづらしいものを見ました。新聞にも盛んに出てゐましたが、あの毒蛾です、あれが実にひどくあの地方に発生したのです。

殊に烈しかったのは、イーハトブの首都のマリオです。私が折鞄を下げて、マリオの停車場に下りたのは、丁度いまごろ、灯がやっとついた所でしたが、ホテルへ着いて見ると、この暑いのに、窓がすっかり閉めてあるのです。マリオは、こゝから三百里も北ですから、よほど涼しい訳ですが、やっぱり仲々蒸し暑いですからね、私は給仕に、

「おいどうしたんだ。窓をあけたらいゝぢゃないか。」と云ったんです。すると給仕はてかてかの髪を一寸撫でて、

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