正岡 子規
万葉集を読む
(一)
四月十五日草廬に於いて萬葉集輪講會を開く。議論こも/″\出でゝをかしき事面白き事いと多かり。文字語句の解釋は諸書にくはしければこゝにいはず。只我思ふ所をいさゝか述べて教を乞はんとす。
籠もよみ籠もち、ふぐしもよみふぐしもち、此岡に菜摘ます子、家聞かな名のらさね、空見つやまとの國は、おしなべて吾こそ居れ、しきなべて吾こそをれ、我こそはせとはのらめ、家をも名をも
右は雄略天皇御製なり。文字は總て原書に據らず。籠には「コ」と「カタマ」との兩説あり。ふぐしは篦の如き道具にて土を掘るものとぞ。籠ふぐしなど持ちて菜を摘み居る少女に向ひ名をのれとのたまふは妻になれとのたまふなり。當時の御代にては斯るむつまじき御事もありけん。