岸田 国士
仏蘭西役者の裏表
日本でこそ、その昔は河原乞食とまで蔑まれ、大正の代にあつてすら、未だに芸人扱ひを受けてゐるわが俳優も、仏蘭西などでは、今も昔も、さぞ、威張つたものであらうと、かう思ふ人もあらうが、どうしてどうして、ルイ十四世大王の寵遇を一身に集めてゐた一代の果報者、モリエールさへ、一公爵が、その頭を抱いて撫でまわすに任せ、遂に釦の角で顔を擦りむいたほどである。
当時の学僧ボッスュエは、演劇の風教問題を論じ、俳優稼業の卑むべきを述べて、かう結んでゐる。
「世に母として、そは基督教信者たるを要せず、また如何に不真面目なる女にてもよし、その娘が、舞台に立たんよりは、寧ろ墓の下に眠らんことを望まざるものあらんや」と。
十八世紀は、自由感想の天下である。更に、クレエロン、ル・カアン、ファヴァール、アドリエンヌ・ルクウヴルウル等の名優を輩出した時代である。