岸田 国士

あの顔あの声

門司から基隆まで

勿論船の上である。Tと名乗る男――彰化で料理屋を営んでゐる男――口髭を生やしてゐる男。

「こんなに静かなことは珍らしいです」

それはまた、両蓋の金時計を幾度も出して見る男――用が無くても船員に話しかける男――誰にでも飯が食へるかと訊ねる男。

青空文庫の作品カード