岸田 国士

新劇の危機

震災後擡頭した新劇運動の目覚ましい機運は、私の観るところ、あまり順調な進み方をしてゐないやうに思はれる。それは「続いてはゐるが、進んでゐない」といふことである。

なるほど、僅か二三年にこれほど眼に見えた進み方をするわけがないといへばいへるであらうが、それなら、「進まうとする」気配さへ見えないのはどうしたものか。

私は、新劇の舞台的完成が、必ず確固たる経済的基礎の上に築かれなければならないといふ議論に与することはできない。また、ある種の人々の熱意からのみ生れるものだとも信じてゐない。まして戯曲の内容や、監督術の傾向が舞台を左右するとは夢にも思つてゐない。

私はただ、一時代の文運が、一人の天才作家の出現によつて華々しい光輝を齎す如く、現代日本の新劇は、一人の――と云へば語弊もあらうが――少くともいくたりかの俳優、真に俳優らしき俳優の誕生によつて、殆ど決定的に「新しい魅力」を発揮するだらうと思つてゐる。

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