岸田 国士
“現代風俗”に就いて
僕は近頃かういふことを考へる。日本といふ国はいつたい、何時になつたら風俗的に統一されるのであらうか?
こゝで風俗といふ意味は、勿論広い意味である。フランス語で m※(リガチャOE小文字)urs といふあれである。世相と云つてもいゝが、少し漠然としすぎるから、日常生活の表現形式として、やはり風俗といふ言葉を使ふ。
風俗が統一されるといふことは、一国の文化が他国の文化の影響を表面的に受けなくなつた時、又は自国の伝統が絶対の魅力を失つてゐない時に、民衆がある一定の道徳的及び審美的標準を自己の生活のなかに求めるところから生れるのである。
西洋の文明諸国は、あらゆる革命に通じて、なほ確固たる民族意識を象徴する風俗的特色を失はずに今日に到つてゐる。ところが、明治維新以後の日本は、政治的変貌と同時に、好むと好まざるとに拘はらず、まつたく世界歴史に類似のない風俗上の伝統破壊を敢行した。つまり、文明開化の精神は、形式的には、西洋の風俗を出来得る限り採用することにあつたのである。