岸田 国士
ジャック・コポオの印象
人を訪ねるといふことが非常に憶劫なたちなので、コポオに会ひたいと思ひながら、いよいよその方法を講じる決心をつけるまで凡そ半年もかかつてゐる。
はじめ、アール・エ・アクシオンのララ夫人にその話をすると、「大使の紹介を貰つてらつしやい」と云つて、傍らにゐる夫君に笑ひかけた。ははあ、こいつは不味いと気がついて、僕は大使と懇意でない旨を答へると、夫人は、「誰かお国のえらい方から、文部大臣に話しておもらひなさい。コポオはさういふ風な男ですよ」と、今度は、露骨に片眼をつぶつて見せるのである。
ララ夫人は、御承知の方もあらうが、思想的にはコンミュニストであり、芸術的にはウルトラ・モデルニストであり、コポオが大戦中、仏国政府の命をうけて、亜米利加へ宣伝旅行にでかけたことを、少なからず軽蔑してゐるのだといふことがわかつた。
私は、手をかけて、今度は、ソルボンヌ大学のルボン先生に相談してみた。此の先生は日本の学生を大事にする先生だから、それでは自分が骨を折つてみてやる。その代り、わしの講義には出席しろといふやうなことで、しばらく機会を待つてゐると、丁度、大学へコポオが講演にやつて来た。ルボン先生は、早速、その後で私を呼んで、コポオ宛の紹介状をくれたのである。