平林 初之輔
諸家の芸術価値理論の批判
はしがき
私が「新潮」三月号に発表した「政治的価値と芸術的価値」は、私の頭に疑問として残されてゐた一つの問題を、雑然と、無秩序に、しかも甚だ例証的に、従つて、非常に単純化された姿に於いて、そして何よりも率直に、表白して、私自身その問題に対する一つのサジエツシヨンを試みつゝ、大方の示教を乞ふために書かれたものであつた。
多くの批評家と読者と先輩と友人とが、或は公けに、或は私に、この小論文に対して、多かれ少かれ各自の見解を吐露して、私に対して啓蒙、示教、駁撃、共鳴等の態度を表示されたことは私の非常に感謝するところであつた。
私自身また、その後、この問題を多少系統的な形に於いて熟慮する余裕を得たのと、前記諸氏によつて、直接間接に教へられるところがあつたとのために、私の前の提言が如何にも粗雑であつたこと、そして全く妥当を欠いた引例などもあつたことに気がつくやうになつた。