岸田 国士
築地座の『ママ先生』
友田恭助君夫妻が、私の「ママ先生とその夫」をやりたいと云つて来た。配役は十人のうちから九人を選ぶといふ窮屈千万な方法だが、私は即座にこれを許した。
友田君夫妻は、新劇俳優として既に確乎たる技倆をもつてゐるし、一座の方針もやや私の考へと一致してゐたからである。
元来、この脚本は、私のこれまでのものとは多少行き方が違ひ、演出等も、やりやうでいく通りもあることを私自身認めてゐるので、配役も、可なり自由にやつてみて、案外面白い結果が得られさうにも思つた。
第一、私の頭では、「ママ先生」といふ人物は、すべてに厚みのある、こつてりした女なのであるが、田村秋子夫人は、反対にきやしやな、どつちかと云へば、さらりとした女性であるやうに思はれる。夫朔郎に扮する友田君は、私の描いてゐる人物にやや近い役柄のやうでもあるが、ただ一点、同君のエキスパンシイフなところ(つまり、感情を表面に現はしすぎる傾向)が、この人物の特性を裏切ることになるのである。